モーゼルの底から その1
金属音のような鳥のさえずりで私は目覚める。
右横で寝ている夫を眺める。
夫はまるで80年代アイドルのドラマの様に肩を剥き出しにし、胸を掛け布団で羽織っているという出で立ちでかすかな寝息を立てている。
カーテン越しの外はまだ暗い。
ベッドの上でまどろみ、昨夜のことを反芻しようとするが思い出せない。
私の目覚めた気配に気づいたのか、夫が黙って起き出し洗面所に向かう。
私は夫の後ろ姿を目で追う。
また私は飲み過ぎて荒れてしまったのだろうか? という疑問が私の脳裏に浮かぶ。
この果てしない地獄のような日々に終りはないのだろうか。
と、ここまで書いて違う、違う、と私は首を振る。
「小涌園! 小涌園!」
と、どうしても聞こえる鳥のさえずりで私は目覚める。
目覚める、と言っても脳が、で、体ではない。
まぶたが重くなかなか開かない、起きたいのに起きれない。
ぶっ。とおならをする。
横で寝ている夫を眺める。やっと目が開いた。よかった~、寝てる。
ぶっ、また出ちゃった、くっさー、肉の翌日はひどい臭いだなあ。
かけぶとん、ばたばた。
カーテン越しの外はまだ暗い。
あーだるい、おしっこ面倒。
昨日は2.5リットルしかビール飲んでないのになあ、だるいー、
なんか、mixi日記書いたっけ? 書いて削除したんだっけ??
誰かの日記にコメントしてないでしょうねえ、ああ、やべえ、記憶がねえ。
ぶっ、まった~、くせー!
夫がむくっと起きてトイレに向かう。
やだ、おならの音で起こしちゃった☆
やべっ!! 先に行かれた~! あの人、一回入ると長いんだな・・・。
すぐ、起き上がってトイレに行けばよかった~、
ああ。おしっこしたい、おしっこしたい、おし、
?
きゅるきゅるきゅる~。
どわわ~、なんてこったああ、は、腹が下ってんぞ、
ああ、ああ、ああ、右を見ても左を見ても、べ、便意が・・・。
う、動けない・・・。
う、うんこ、おしっこ・・・、
ににんがよん、ににんがよん・・・、
あ、
もう、
だめ・・・、
悲劇。
そう、朝一番、トイレの順番を夫婦で取り合うこのが現実なのだ。私は白いiBookの前で独りごちる。
飲み過ぎた翌朝は下痢になる。
今朝もうんこをもらした汚いパンツを捨て、シャワーを浴びた。
朝食を取ると夫は学校へ行った。
そして私はiBookのパソコンでメールチェックやmiixなどで遊ぶ、
今ももうしてくだらない小説などを書いていた。
私は病気持ちの主婦で夫の留学についてドイツは片田舎のトリアーというモーゼルワインの産地の街に来ている。朝はまぶたが重く手の動きが悪い。関節炎もあり体が少し不自由だ。3年前から病状が悪化し、それ以来仕事はしていず、主婦という立場に甘んじている。疲れやすいのと体力がないのでなんとか自力で稼げないものかと日々、絶望的にへたくそな小説などを書いて文学の新人賞などに応募しようと画策してはいるが、書き終える能力はなく、ただただ、日々昼間から飲んだくれているのであった。
夫が学校に行ったあと、一人家に取り残されると、なんか生きている感じがしない。
買い物は楽しい。
私の日常は調理、食事、買い物、テレビ、インターネット、You Tube、ポッドキャスト、mixi、その繰り返しだ。
友達はいない。
たまに夫の友人や知人から紹介されで飲み会などにいくが、そんなのは単なる気休めだ。むしろ、参加した翌日死にたくなる。
ここには二十歳前後の1年間のみの留学生が多い。
年若い人とコミュニケーションする度に鬱のようになる。
話は合わないし、何を話したらいいかもわからない。向こうにはそういう気遣いもない。
私も若い頃、そんなにまっとうだったわけではないけれど、少なくとも、目上の人に対しては敬語を使っていたような気がするが、などと思ったりする。
私は常に自分がからっぽなような気がする。生きた証しにmixi日記などを書くけれど我ながらつまらない。人様に見せるような代物ではないと自覚しているのだが書かずにはいられない。
書く内容はたいてい若手お笑い芸人評であった。
夕食の仕度をする際、私はビールを飲む様になった。
独身時代、夫とつきあう前まではそれほどビールをおいしいと思ったことはないが、知らず知らずのうちに調教されていたらしい。
私は料理は嫌いな方ではなかったが飲酒をすることにより、より楽しくなった。
夫は帰宅した際、すでに私がビールを飲んでいることに関して何も思わなかった。
私は昼食時にもビールを飲む様になった。
次第に夜の私のビールを飲む時間が早くなっていった。
5時、4時、3時。
昼食時のビールの量も1本から2本に増えた。
歯を磨いて落ち着くと、すでにそわそわして来て、夕食、夕食時のビールを楽しみにするようになった。
そうなると昼から夜まで飲み続けることになることは時間も問題だった。
ビールをいくら買っても間に合わない。
私のためいきは尽きない。
つづく
右横で寝ている夫を眺める。
夫はまるで80年代アイドルのドラマの様に肩を剥き出しにし、胸を掛け布団で羽織っているという出で立ちでかすかな寝息を立てている。
カーテン越しの外はまだ暗い。
ベッドの上でまどろみ、昨夜のことを反芻しようとするが思い出せない。
私の目覚めた気配に気づいたのか、夫が黙って起き出し洗面所に向かう。
私は夫の後ろ姿を目で追う。
また私は飲み過ぎて荒れてしまったのだろうか? という疑問が私の脳裏に浮かぶ。
この果てしない地獄のような日々に終りはないのだろうか。
と、ここまで書いて違う、違う、と私は首を振る。
「小涌園! 小涌園!」
と、どうしても聞こえる鳥のさえずりで私は目覚める。
目覚める、と言っても脳が、で、体ではない。
まぶたが重くなかなか開かない、起きたいのに起きれない。
ぶっ。とおならをする。
横で寝ている夫を眺める。やっと目が開いた。よかった~、寝てる。
ぶっ、また出ちゃった、くっさー、肉の翌日はひどい臭いだなあ。
かけぶとん、ばたばた。
カーテン越しの外はまだ暗い。
あーだるい、おしっこ面倒。
昨日は2.5リットルしかビール飲んでないのになあ、だるいー、
なんか、mixi日記書いたっけ? 書いて削除したんだっけ??
誰かの日記にコメントしてないでしょうねえ、ああ、やべえ、記憶がねえ。
ぶっ、まった~、くせー!
夫がむくっと起きてトイレに向かう。
やだ、おならの音で起こしちゃった☆
やべっ!! 先に行かれた~! あの人、一回入ると長いんだな・・・。
すぐ、起き上がってトイレに行けばよかった~、
ああ。おしっこしたい、おしっこしたい、おし、
?
きゅるきゅるきゅる~。
どわわ~、なんてこったああ、は、腹が下ってんぞ、
ああ、ああ、ああ、右を見ても左を見ても、べ、便意が・・・。
う、動けない・・・。
う、うんこ、おしっこ・・・、
ににんがよん、ににんがよん・・・、
あ、
もう、
だめ・・・、
悲劇。
そう、朝一番、トイレの順番を夫婦で取り合うこのが現実なのだ。私は白いiBookの前で独りごちる。
飲み過ぎた翌朝は下痢になる。
今朝もうんこをもらした汚いパンツを捨て、シャワーを浴びた。
朝食を取ると夫は学校へ行った。
そして私はiBookのパソコンでメールチェックやmiixなどで遊ぶ、
今ももうしてくだらない小説などを書いていた。
私は病気持ちの主婦で夫の留学についてドイツは片田舎のトリアーというモーゼルワインの産地の街に来ている。朝はまぶたが重く手の動きが悪い。関節炎もあり体が少し不自由だ。3年前から病状が悪化し、それ以来仕事はしていず、主婦という立場に甘んじている。疲れやすいのと体力がないのでなんとか自力で稼げないものかと日々、絶望的にへたくそな小説などを書いて文学の新人賞などに応募しようと画策してはいるが、書き終える能力はなく、ただただ、日々昼間から飲んだくれているのであった。
夫が学校に行ったあと、一人家に取り残されると、なんか生きている感じがしない。
買い物は楽しい。
私の日常は調理、食事、買い物、テレビ、インターネット、You Tube、ポッドキャスト、mixi、その繰り返しだ。
友達はいない。
たまに夫の友人や知人から紹介されで飲み会などにいくが、そんなのは単なる気休めだ。むしろ、参加した翌日死にたくなる。
ここには二十歳前後の1年間のみの留学生が多い。
年若い人とコミュニケーションする度に鬱のようになる。
話は合わないし、何を話したらいいかもわからない。向こうにはそういう気遣いもない。
私も若い頃、そんなにまっとうだったわけではないけれど、少なくとも、目上の人に対しては敬語を使っていたような気がするが、などと思ったりする。
私は常に自分がからっぽなような気がする。生きた証しにmixi日記などを書くけれど我ながらつまらない。人様に見せるような代物ではないと自覚しているのだが書かずにはいられない。
書く内容はたいてい若手お笑い芸人評であった。
夕食の仕度をする際、私はビールを飲む様になった。
独身時代、夫とつきあう前まではそれほどビールをおいしいと思ったことはないが、知らず知らずのうちに調教されていたらしい。
私は料理は嫌いな方ではなかったが飲酒をすることにより、より楽しくなった。
夫は帰宅した際、すでに私がビールを飲んでいることに関して何も思わなかった。
私は昼食時にもビールを飲む様になった。
次第に夜の私のビールを飲む時間が早くなっていった。
5時、4時、3時。
昼食時のビールの量も1本から2本に増えた。
歯を磨いて落ち着くと、すでにそわそわして来て、夕食、夕食時のビールを楽しみにするようになった。
そうなると昼から夜まで飲み続けることになることは時間も問題だった。
ビールをいくら買っても間に合わない。
私のためいきは尽きない。
つづく