もいんもいん!

「もいん」とはもとは北ドイツのおはようという意味です。

モーゼルの底から その2

さて、今日も夫が学校から帰って来た。
その日も私たちは夫が学校から帰ると夕食をともにした。

夫は夕食を終えるとすぐに寝てしまう。

そこで私のいらいらは爆発する。
とにかく先に寝られると超いらいらする。

そこでまた私は夕食の後片付けを再びビールを注ぐわけであった。

徐々に私も声を荒げて来る。

「あたしが、あとかたづけをするのが当然なんだ!!」と知らず知らずのうちにその思考は私の大きな声となる。

大きな声となる。

それで夫が起きようと私には関係なかった。


ドイツの室内はシの音がする。飛行機の機内にいるような音がする。
その音はあたかもUFOが飛んでいる音だ。
その実は暖房の音である。

新婚旅行で行ったフュッセンのペンションもミュンヘンのYMCAも数々の旅行先のユースホルテルも、ここトリアーの学生寮も。

今朝も小涌園の鳥の鳴き声で目覚めてからまどろんでいると
シの音を感じる。隣でまだ眠っている夫を眺める。

つい先ほどまで見ていた夢を反芻する。私と夫のあとをきれいな女性がずっと着いて来る、という、いつもの二人の生活に突然もう一人の女性という第三者が介入して来るというものだった。
その女性は誰かに似ているような気がするけど思い出せないし、特定の誰かではないかもしれない。

横でまだ寝ている夫を眺める。夫を見る目が変った気がした。起きて自分のための簡単な朝食を用意する。うちは朝昼の食事は各々食べたいものを作る。
昨夜何事もなかったように夫はおはようといい、トイレに入ってから朝食を食べる。

「行ってくるよ」と夫がドアから出て行く。
私はこの日一日、目覚めてからずっと心に鉛があるような、もやもや感を抱いて過ごしたが、
いつか、夫がこのまま家に帰ってこないってこともあるかもしれないなと思いつつも、昼から酒をあおる私なのであった。

夫は家にいる時は論文を書いている。無からよく論文を生み出せるものかと尊敬する。
私は何も生み出せない。

それでますます私はいらいらする。なぜ、いらいらするのか私にはわからないが、とにかく、いらいらする、
私の中の悪意の塊が表に出るのを今か今かと待っている。


「私がこんな性格なのは私の人生のせいだと思う」とめめみがmixi日記で書いていた。
めめみは決して「私の人生がこうなのは私の性格がこうだから」とは言わない。

他にも
「おごってくれない男って信じられない」
「彼氏ができたけど、病気のこと言えない」
彼に言ったという報告もなくいきなりめめみは入院。
「入院中、先日彼がでかいぷっちんぷりん買ってきてくれました、今度一緒に食べようと約束しました、明日が賞味期限です、こないとやけ喰いしちゃうぞ、※ちなみに明日は彼出張 訳:出張帰りに来い」
「彼がお土産に岩のり買ってきてくれました、開かない(強皮症)、開けに来て~」
「『28歳までに女がすること』って本買いました」
「泣けるって聞いたのでこの本買いました」

私はめめみの書くことなす事全て気に入らない。
めめみのマイミクのコメントも変なのばっかり。逆にバカにしてるのか、コメントの自作自演か。
そう思い立ち、寒気を感じる。

私とめめみの共通点はただ、同じ病気の持ち主ということだけである。
それ以外には何の接点も見出せない。

mixiでめめみから私に接触してきた。そしてマイミクになった。

mixiをしているとこのようにどうしようもない他人の日記にいらいらすることがある。
よくもこんなくそおもしろくもない脳みそたれ流しの日記を書けるなあ、
仮にも読む他者が存在するのだぞ、と思う。
ある日、ふとたわむれにもう一人のマイミクをねつ造しようと思い立った。
もう一つメースアドレスをフリーメ-ルで獲得しmixiでその新しいメールアドレスを招待し、新しい人格を創造する。そして本来の私とはマイミクを解消し独立した人物に仕立て上げる。

何人もコピーを作れば、マイミクも増え、
自分の日記に自分に都合のいいコメントも書ける。

そして全く架空の日記を書いたり、人の日記に辛辣なコメントを書いたりしたら
楽しいだろうなあと思う。

しかしそれはむなしく薄ら寒い作業に違いない、と自分を必死に制する。
それをやったらもう人ではないと思う。

つづく