もいんもいん!

「もいん」とはもとは北ドイツのおはようという意味です。

オットーくん 第5話

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ある日、オットー君の作ったアップルパイを食べながらたかはし夫婦がおいしく幸福なティータイムをしているとビーっとたかはし家の家の玄関のブザー音が鳴りました。
夫がドアを開けてみると、汚い格好をした日本人でした。
そのひとはいきなり
「オットー君を連れ戻しに来ました」と言いました。
日本語が聞こえたので妻のチカさんも玄関に来ました。
「私は以前、オットー君と暮らしていたのです」
「?」
「オットー君は傾いているので雲から落ちてしまったのです。オットー君は天使なのです。あなたも(とチカさんの方を向き)母乳が出たでしょう、そしてこれはあなたの物語でしょう」

チカさんはやっと気がつきました。そのひとが以前チカさんがよく想像していた雲の上の世界のひとだということを。オットー君が来てからその世界のことをすっかり考えませんでした。そしてあまりに汚かったのですぐには気づかなかったのです。
テーブルの上でテレビを見ているオットー君を見ました。オットー君もこちらを見ました。
「でも今更オットー君は引き渡せないよ、オットー君だって戻りたがってないよ」 とチカさんは叫びました。
その汚い身なりのひとは悲しい顔をして言いました。
「わたしはオットー君をずっと探し歩いていたのです。一目会わせてください、ほらオットー君の好きなバニラビーンズ入りシュークリームも持って来ました」
「そう言って、オットー君を連れて帰っちゃうじゃないでしょうね、それにあなたは自由に飛び回ったり走ったり跳ねたりできるじゃないか」とチカさん。
その人も必死です。「それでもオットー君のいない生活というものは堪え難いものです。もちろんタダとは言いません。どこでもドアと交換です」
「それでもやだい!」とチカさんも食い下がりません。
「長くつらい旅だったのです」
チカさんもだんだんそのひとがかわいそうになってきました。
突然、オットー君がいなくなったらどうしたってつらいものです。ましてこのひとはオットー君の前の同居人。
チカさんはオットー君がしっぽを振っていることに気がつきました。
そこでオットー君をその汚いひとに会わせました。
その人は「オットー君・・・」泣いて喜びました。
オットー君もしっぽを振っています。

オットー君は一体どちらのひとたちとどちらの世界に住みたいのでしょうか。
オットー君はしゃべりません。

「あなたが死んだら連れ戻しに来ます」とその汚い人は言いました。
そしてその汚いひとはさみしそうに雲の上に帰って行きました。オットー君もさみしそうに見送りました。チカさんも自分のことのようにさみしく思いました。

そんなわけでたかはし家にはどこでもドアがないのです。
チカさんは空を見上げるといつもあの雲の上の人を思い出しました。そこではあの雲の上のひとはひとりさみしそうにギターを弾いたり一人でサッカーをしたりスキーをしているのでした。


おわり