もいんもいん!

「もいん」とはもとは北ドイツのおはようという意味です。

オットーくん2 第4話『雷の子とオットーくん』

『雷の子とオットーくん』

ぴかっ、ゴロゴロ・・・。
「あっ、雷だ」
ゴロゴロゴロゴロ・・・。
「きゃー、すごい音したぞ」
とオットーくんは一瞬目と耳を塞ぎました。
目を開けると何やらベランダが輝いています。
「あれ?」と近づくと金色に輝く男の子が泣いて立っていました。
「コンニチハ! ぼくオットーくん、君はだれ? どうしてここにいるの?」
「えーん、ぼくは雷族の子供なんだ、雷の鳴る太鼓を勝手に叩いて遊んでたらあまりの大きさにびっくりして雲から落っこっちゃったんだ、お父さんに怒られちゃうよ~」とその雷の子は泣きながら言いました。
「君も空から落ちて来たんだね、とっても怖かったでしょう」
とオットーくんは同情し、「今、おいしいお茶をいれてあげるよ、もうすぐパンプキンパイが焼き上がる頃だよ、雨の日はね、パンプキンパイが最高なんだよ」と雷の子を部屋の中に招き入れかいがいしく世話をしました。
外は激しい雷雨です。オットーくんは生クリームを泡立てながらこんな日に医者に行っているチカさんと夫の心配をしました。
チン。「ほらできたよ、いい香りがするでしょう?」
とオットーくんはフルーツたっぷりの紅茶と生クリーム添えのパンプキンパイを持ってきました。男の子の紅茶にははちみつを入れムーミンの絵のついたナイフとフォークを渡してあげました。
「とってもおいしい」と雷の子はようやく泣き止みました。
雷の子がいうには雷を落とす太鼓は12歳になったときお父さんの指導のもとで行われなければなりません。つい先日12歳の誕生日を迎えたお兄さんは早速お父さんの指導のもと太鼓を叩きました。まだ5歳の弟の雷の子はお兄さんをうらやましがり、こっそりすきを見て叩いてしまったのでした。
話しながらまた雷の子は泣き出しました。
「お兄ちゃんからも怒られちゃうよ。空へ帰れるかなあ」
これに関してはオットーくんも答えられませんでした。
「きっとお父さんが迎えに来てくれるよ」
と雷の子を励ましましたがこれも自信はありません。なぜなら以前オットーくんと一緒に住んでいた雲の上の人ですらオットーくんを探すのに大変苦労したのですから。
オットーくんは考えました。
「虹を渡るのはどうかな」
雷の子は驚いて言いました。
「まだぼくは登ったことないよ」
「大丈夫さ、きっと登れるさ」
雷の子は虹を雲の上から見たことはありましたが降りたことはありませんでしたし、虹を渡る人を見たことはありませんでした。オットーくんもです。でも考えてみたのです。
しかし雷雨はいっこうにおさまりません。
雷様が雷の子が地上に落ちたのを嘆いているかのようでした。
ようやく雷雨が治まり東の空に虹が架かりました。
「今だ!」とオットーくんは背中に雷の子を乗せ東の空にかかる虹の端を目指し飛んで行きました。
やっと虹の端に来ました。
「さあ、勇気を出して渡るんだ」とオットーくんが促します。
「うん」と虹を踏みしめました。一歩、また一歩と登って行きます。
「登れたぞ、オットーくん、どうもありがとうね、紅茶とパンプキンパイとってもおいしかったよ」と振り返って言いました。
「気をつけるんだよ」とオットーくんは言いました。
オットーくんの見守る中、雷の子はぐんぐん虹を登って行きます。
そして徐々に虹が消えかかりました。オットーくんははらはらしました。
でも変に声をかけてしまったら雷の子はまた驚いてすべりおちてしまうかもしれません。でも雷の子はどうにかてっぺんにたどりつきました。
「ああ、でも雲まであとちょっと届かない!」と雷の子は叫びました。
オットーくんもびっくりしました。「どうしよう」と困っている間にも虹は消えつつあります。
そこへちょうど、チカさんと夫が歩いて来ました。
「あら、オットーくん、どうしたの? こんなところで、きれいな虹ね」
とチカさんが声をかけましたが、オットーくんは青い顔をして答えません。
あ! そうだ! とオットーくんはチカさんの杖を指差し、夫に虹のてっぺんに投げて! と頼みました。二人が上を見ると消えかかった虹のてっぺんに金色に輝く男の子が雲に手を伸ばしている姿を見つけました。
「あぶない!」と夫はチカさんの杖を虹をてっぺんに投げました。
雷の男の子は杖を受け取り虹に差し杖を登り雲に登って行きました。
虹が消え、ありがとーという雷の子の声が木霊しました。

こうして雷の子は無事に雲の上に帰って行きました。

さて、チカさんの杖も虹とともに消えてしまいました。数々の童話の傾向によるとここでチカさんの不自由な足が治り杖の必要のない体になるのですが、関節炎は治りませんでした。しかしその代わりにこの一家は虹を登れるようになったといいます。


7年後。
オットーくんはパンプキンパイが焼き上がるのを待っていました。
ぴかっ、ゴロゴロ・・・。
「あっ、雷だ」
ゴロゴロゴロゴロ・・・。
「きゃー、すごい音したぞ」
とオットーくんは一瞬目と耳を塞ぎました。
目を開けると何やらベランダが輝いています。
もしやと近づくと
「また失敗しちゃったよ」と照れくさそうに12歳になった雷の子がまた金色に輝きながら立っていました。