もいんもいん!

「もいん」とはもとは北ドイツのおはようという意味です。

オットーくん 第3話

 さて、ここはタイはEUへの輸出向けのぬいぐるみ工場。
低賃金でタイ人が働かされている工場制手工業の工場です。
検品前のオットセイのぬいぐるみの巨大な段ボール箱に、オットー君が空から落ちてすっぽり入ってしまいました。

オットー君以外のぬいぐるみはビニールに詰められていくのに、オットー君だけ違う箱にぽーんと入れられました。入れたお姉さんが「かわいそう、けっこうかわいいのに、これだけ傾いてりゃ、廃棄だね、ピサもびっくりだよ」

「ピサ? ピサって何だ? はいき?」
オットー君はがんばって起き上がって他の仲間と自分とを比べました。
「僕はかなり傾いている! はいきって燃やされちゃうことなんだ! 」
と、オットー君は気がつき急いで海に飛び込みました。

オットー君は一生懸命、慣れない泳ぎをしました。
突然にいろいろなことが起ったのでパニック状態になっていましたが、
徐々に泳いでいるうちにいろいろなことを思い出しました。

「僕は、あの人にとても愛されていたんだ」

あの人には名前がありませんでした。しいて言うのであれば、神様といったところでしょうか。
オットー君が、さっきまでいたところでは名前は必要ない世界でした。
でも、あの人はオットー君のことをオットー君と呼んでくれました。
オットー君がオットセイをかわいくデフォルメしたぬいぐるみの形態をしていたからでしょう。

そしてさっきまでいた世界と今ここにいるオットー君の境遇のなんと違うことでしょう。
オットー君はさっきまでいたであろう、天を見ながら泳いでいました。
今、オットー君にできることは泳ぐことだけなので天に帰ることは不可能のように思えとても悲しくなってきました。

もう、どのくらい泳いだかわかりません。
「天に帰れないならとにかくピサを目指そう、そこに何かがあるはずだ 」
と、オットー君は新たに自分を勇気づけました。

その後、オットー君はジョーズに喰われそうになったり、迷い子くじらと友達になったり、幽霊船や海賊船に遭遇します。一番ショックだったのは、漂流していたいかだの中に二つの白骨死体を見つけたことです。一人の白骨がもう一人に噛みついていました。

 そんなオットー君も漁船の網にひっかかって売られ流れ流れて着いた先はドイツはデュッセルドルフの蚤の市。日本人のチカさんに一目惚れされ2.30ユーロで買われたのでありました。

 その日からオットー君はそのたかはし夫婦の家に住むことになり、3人で仲良く楽しく暮らし始めました。
オットー君もすぐにたかはし家の暮らしが気に入りました。

でもオットー君はたまにあの空の上の人やまだ見ぬピサを思い出します。オットー君は果たしてあの人に再び出会えるのでしょうか。そしてピサにたどり着けるのでしょうか。
オットー君の旅は終わりません。

 
つづく