もいんもいん!

「もいん」とはもとは北ドイツのおはようという意味です。

意訳シリーズ第2回『ロキの口論』その2

ノルウェーアイスランド神話『エッダ』のロキの口論(松谷健二:訳 ちくま文庫より)

その2

ロキ「うるせー、ゲフィヨン!おめえに手を出した男はこっちにはわかってるんだ、尻軽女。あの若造からネックレスをもらったら、いそいそと相手に大股を開きおって! くそあま!」

オーディン「おお、ゲフィヨンを怒らせるとは、ロキよ、もってのほかじゃ、気がふれたか、ゲフィヨンはわしと同じように、全世界の運命を知っているのだぞ」

ロキ「黙れ、オーディン、おめえは戦いの運命を決めることには不能だぞ。適当に勝利を値打ちのねえものに何度も与えやがって、不能!無能!バカ!役立たず!」

オーディン「うおっほん、わしが値打ちのないものに勝利を何度もさずけたことがあったにせよ、ロキ、そういうおめえは八冬の間、乳搾りの女になって地底にいたではないか。子供さえそこで生んだではないか、これは女のすることだわ」

ロキ「そういうおめえはサームス島で魔女のように人間どもの間をうろついていたと聞くぞ、これは女のやることだわ」

オーディンの妻、フリッグ「遠い昔にお二人がなさったことはこれ以上言わないでいましょう」

ロキ「うるせー、フリッグ! おめえ、オーディンが留守の間、オーディンの二人の兄弟とよろしくやってたそうだな、いいタマしとるで全く、あ?三人のうちでどれがよかったんだ? 竿さえついてりゃ誰でもいいのか!この男狂い!!」

フリッグ「ああ、この広場にバルデルのような息子がいてくれたら、おめえを生かしてはいねえだろうよ!!」

ロキ「ふははは、フリッグ、おめえさんの息子が死んだのはよ、俺が殺したからさ」

フレイヤ「ああ、ロキおまえはどうかしとる。ここでそんな忌まわしい話をするなんて。フリッグは未来のことがわかるのですよ」

ロキ「だまれ、フレイヤ!この売女! どすけべ! 実の兄と寝ているところを神々にみつかりくっせー屁をひりおってからに! あーくせ、くせ」

ニエルド「女が夫の他に愛人を持っても別にたいしたことねーじゃん。男のくせに子供を生んだ神がここにいるってのはちと解せねえぜ」

ロキ「うるせー、ニエルド! おめえは神々の人質として、東の巨人の国に送られただろうが。ヒュミルの娘どもがおめえを尿瓶がわりに使っておめえはしょんべんまみれになってただろうが、あー、しょんべえくせえっ」

ニエルド「人質として遠国に送られはしたが、そこではちゃんとなぐさめがあったのだ。一人息子のフレイがそれだ。神々の王とも言われているぞ」

ロキ「うるせー、ニエルド、いい気になるなよ、うそつき野郎。そのフレイはおめえの妹とこしらえたもんじゃねえか、近親相姦豚野郎、外道!!」

チュール「神々の国でフレイほど馬術に優れた者はいないし、彼は生娘にも人妻にも礼儀正しい気立てのいい青年だ」

ロキ「だまれ、チュール! 分別くせえぞ、自分だけいい顔しやがって、怪狼フェンリルに噛み切られたおめえの右手を思い出すわ」

つづく