もいんもいん!

「もいん」とはもとは北ドイツのおはようという意味です。

意訳シリーズ第2回『ロキの口論』その3

ノルウェーアイスランド神話『エッダ』のロキの口論(松谷健二:訳 ちくま文庫より)

その3

チュール「わしは右手をおめえは父親の狼の化物をなくしたからおあいこだな。あの狼もしばられたままで神々の最後を待つとは楽な役目じゃないよな」

ロキ「だまれ、チュール、おめえの女房にガキを生ませたのはこのロキ様よ、おっと、待った、この件のつぐないにびた一文やるつもりはないわ、寝とられ男め」

フレイ「俺には見えるぞ、狼が川のはてにつながれているのが。この疫病神!黙らないとおめえも同じ目にあうぞ」

ロキ「だまれ、フレイ! おめえは金でギュミルの娘を買って、自分の剣をやってしまった。世界を破壊する火の巨人のムースピリの子供らが攻めてきたら、どうやって戦うつもりだ、大バカ者め」

ビュグヴィル「ええい、さっきから何をごちゃごちゃ言うとるんじゃあ!! この俺様にフレイ神のような力と地位があったら不吉なカラスの骨の髄を打ち砕いてこなごなにしてやるものを!」

ロキ「おやおや~?そこで何かぴいぴいささやいてる小っさい奴は誰かと思ったら、いつもフレイに金魚のふんみたいにくっついてる奴じゃねえか」

ビュグヴィル「おいらはビュグヴィルだど!神々の間でも人間の間でも評判がいいんだど。だからオーディン様一族の集うここにも列席を許されているのさ、へっへん」

ロキ「うるせー、ビュグヴィル、貴様に客人の食事の支度もできねえくせに、いざ戦いともなると床のわらの中を捜しても貴様の姿は見えへんで~、しょんべんくせえチビめ」

ヘイムダル「飲みすぎだぞ、ロキ、いい加減にしろ、酒をくらいすぎると誰でもしゃべりまくり、しかも波をしゃべっているか、わからなくなってしまうものだ」

ロキ「うるせー、ヘイムダル、その昔、つらい日々を課せられたのを忘れたか、おめえは雨の日も風の日もびしょぬれになりながらも身動きせずに神々の番兵をつとめさせられたじゃねえか」

ニエルドの妻、スカディ「いい気なものね、ロキ、でもいつまでも勝手な口をきかせておかないよ、神々からあんたの霧の巨人の名のあるぞっと冷たいあんたの息子のはらわたで、鋭い岩角にくくりつけられるからな」

ロキ「ふんっ。ぞっと冷たい俺の息子のはらわたで、鋭い岩角にくくりつけられるにしてもだな、おめえの父親の巨人のティアナが殺されたとき、終始その場にいたのはこの俺様だ」

スカディ「巨人のティアナが殺されたとき、終始その場にいたのがおまえだとしても、おまえのところに行くものは永遠に冷たい知らせだよ」

ロキ「お前さん、この俺様をベッドに招き入れてくれた時は、もうちょっと愛想がよかったはずだが?愛想がよかっただけでなく、あんあん言ってたのはどこの口だ?こら」

トールの妻、シヴ「ごきげんよう、ロキよ、古い蜜酒をたたえた水晶の杯をお受けなさい。神々の中で私だけにはその毒舌をふるわないように」
ロキは杯を飲み干し答えた。

つづく